2019年11月7日、東京向島ロータリークラブの懇親会に伺いました。
人生初めての卓話。話始めはすごく緊張。
でも、皆さんがこちらに注目してくださって頷いたり、
笑ったりしてくださる度に少しずつ緊張がほどけ、
最後は私が多分一番楽しんでいたような。
記念すべき、貴重な体験でした。
声をかけてくれた友人に心から感謝しています。
11月7日、東武ホテルレバント東京で開かれた東京向島ロータリークラブ様の懇親会に伺い、卓話をさせていただきました。
「卓話」と言う言葉をご存じですか?恥ずかしながら、私は今回のお話をいただいた時に初めて「卓話」という言葉を知りました。「卓話」とは【親睦会などといったイベントの開催時間中にある参加者が他の参加者全員を前にして自身の意見を発表すること】(Weblio辞書より)だそうです。
ある日、私の学生時代の同級生が「ロータリークラブで中国語についてお話してみない?」と連絡をくれました。彼女は、私がこの8月にアジアのことば教室を開いた時から応援してくれていて、「中国語のお教室にはこの植物がぴったりだから!」と言って大きなハッピーバンブーの鉢植えをプレゼントしてくれた人です。ちなみにそのハッピーバンブーは高さが180㎝くらいある常緑の竹。常緑、エバーグリーン、つまり枯れることのない永遠の生命の象徴です。しかも、竹はパンダの好物ですから中国語教室を飾るには理想的な鉢物です。
彼女のパートナーがロータリークラブで様々な奉仕活動をされていて、そのご縁で今回、毎週開かれる定例懇親会の卓話を私にしてみないか、というお誘いでした。この10年間、ほぼ毎日レッスンしているので、子供、大人問わず人前で話すことは慣れているのですが、卓話となると話は別です。レッスンと違いテキストがない、聴衆が中国語に興味があるとは限らない。約20名の年代の異なる方々を前にして30分間楽しんでいただける話って何だろう。ロータリークラブの会員と言えば、各々の事業を展開しながら国や地方の行政と協力しながら地域の安全と新興のために様々な活動をされている方々なわけです。その方々を前に何か有用な情報を盛り込んで立派な話をしなければ。変な意気込みとプレッシャーを感じていました。総務省や観光庁が発表している中国人にまつわるいくつかの統計を調べてみたりして一応レジュメは作りましたが、結局、卓話で使ったのは「平成30年6月現在、(日本に居住している)在留外国人数は260万人で過去最高。そのうち28.1%が中国(74万人超)。」という法務省のデータのみでした。
テーマだけは卓話の1週間前に『企業のニーズ・サバイバル中国語』と決めていたので、10年間の企業研修の移り変わりについて私の経験談を軸に話を進めるつもりでしたが、話の構成を具体化できないまま当日を迎えました。
その日の朝は、あるアパレル企業の早朝レッスンがありました。私と同世代の彼女は営業に配属された昨年以降、アジア、特に中国出張が激増し、交通の不便な場所にある工場に一人で出張に行くことが度々ありました。営業担当になった当時の彼女は中国語を話すことはできませんでした。出張先であまりにも英語が通じず、中国語の読み書き、コミュニケーションができないまま中国へ出張することがストレスになり始めていた今年の初夏、彼女は中国語のレッスンをスタートさせました。それから5カ月経った今、彼女は覚えたての中国語を駆使して果敢に中国ビジネスの現場に飛び込んでいっています。卓話の日の朝も、数週間後に控えた新規取引先との面談を想定した自己紹介の特訓をしました。彼女とのレッスンの度に、大変僭越ながら、そのアパレル企業の人事部が彼女を中国営業担当に抜擢したことについて、「さすが人事。人を見る目があるな。」と私は感心していました。彼女は声が大きく、話すスピードが速く、主張と希望がはっきりしており、そしてとても用心深い人です。彼女が用心深い人だということは出張中のエピソードを聞いているとよく分かります。しかし、リスク回避を考慮した上で彼女がとる行動は全体的に思い切りの良い行動なのです。用心深いこと。思い切りの良いこと。これは、海外ビジネスでは必要不可欠な要素のようです。彼女をはじめとした、これまで私のレッスンを受けてくださったビジネスパーソンの方々の駐在や出張の話を聞いていて、そう感じます。私自身はもっぱら日本国内で上司の指示通りに中国企業とやりとりをしていただけなので、完全アウェイの現地で仕事をしたことがない私は偉そうに中国ビジネス云々とは言えないのですが。
彼女のレッスンが終わり、いよいよお尻に火がついて錦糸町のドトールで卓話の構成と原稿を書き始めた時、開き直りました。ビジネス歴数十年のロータリークラブの方々を前に私が立派そうな話をできるわけがありませんよね。ぽっくりを履いて背伸びをしても中身の空虚さはバレます。私も張子の虎にはなりたくありません。私の専門の話、一番得意で私自身が好きで楽しいと思える話をするしかない。私の生業は中国語の講師ですから、私が体験する最も今時の中国ビジネスにまつわるエピソードをお話しすること。そしてもう一つ心がけたいと思ったのは、卓話はランチの直後なのですから、皆さんに楽しい気分になっていただきたいということ。だって、ほとんどの方が懇親会の後、半日仕事をされるわけです。午後の仕事場に向かう足取りが少しでも軽くなるといいな、と思って卓話の構成を仕上げました。
簡単な自己紹介の後、件の彼女のエピソードを披露してから、「お名前中国語読みクイズ」を決行しました。あらかじめ懇親会のご出席者の中から8名の方のお名前をうかがっておいたのです。自分に身近で、興味を持てる言葉やトピック、そういう中国語がすんなり身に付きます。無理なく体(頭)に入ってきます。卓話中は中国語読みの発音をメモに取ってくださっていた方もいたし、懇親会がお開きになった後で「ぼくの名前は中国語でどんなふうに発音するの?」と聞きに来てくださった方もいて、とても嬉しかったです。
嬉しかったことがもう一つ。卓話の最中に私がいくつかの中国語の単語をしゃべったのですが、皆さん申し合わせるでもなく口々に私の中国語を真似してすごく上手に発音されるのです。この感度の良さは語学学習向きです。多くのレッスンでは「リピートしてください。」と私が言った後で受講者の方が繰り返し練習をするのですが、「リピートしてください。」と指示がなくても自然と口が動くロータリーの皆さんを見て、小松達也氏の中国語レッスンを担当させていただいた時のことを思い出しました。小松氏は、アポロ計画の月面着陸時の同時通訳者でも有名な日英同時通訳の第一人者。小松さんもレッスン中、私が話した中国語を絶え間なく繰り返し呟いていらっしゃいました。その緊迫感、気迫を目の当たりにして、語学のスペシャリストのトレーニングとはこういうものかと思いました。
卓話の時間は30分間でしたが、そこに行きつくまでに小旅行をしてきたような気分です。目の前にいる方の観察をして、いくつかの思い出が頭をよぎり、これまでの自分のレッスンを総括しようとして、最後に中国語を面白がってくださった皆さんの笑顔を見て、私がきっと一番元気になってハッピーになって家に帰ってきました。
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