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中国語入門の方にアジアのことば教室をおすすめする理由を書きました。

◆中国語とはどのような言葉なのか?

 中国語をしゃべるということは中国の漢字を読むということです。実は、中華圏で使われている漢字は2種類あります。「簡体字」と「繁体字」です。大陸で使われている漢字は画数の少ない「簡体字」、一方、台湾で使われているのは画数が多く複雑に見える「繁体字」です。画数の面で見ると、私たち日本人が使っている漢字は「簡体字」と「繁体字」の真ん中くらいでしょうか。

 一般的に私たち非中華圏の人が「中国語を勉強する」と言ったときに学習するのは中国語の標準語とも言える「普通話」という言葉ですが、この言葉を話すためには主に「簡体字」の読み方を学ばなければなりません。日本の漢字を読むためには音読みと訓読みを勉強しますよね。そして、その漢字をどのように発音するのかということを表した発音表記はひらがな、もしくはカタカナを使っています。「簡体字」にも読み仮名はついています。その読み仮名のことを「ピンイン」と呼んでいます。この「ピンイン」はアルファベットを使って中国の漢字の発音を表したものです。ですから、中国語のレッスンでは、先生がよく生徒さんに「この単語のピンインを読んでください」のようなリクエストをすることがありますが、これは、「その漢字の持つ発音記号(アルファベットで表記されている)を読んでください」という意味なのです。

 さて、ピンインの一覧表というものを見てみると、どのテキストの表も、大概は横に母音36個、縦に子音21個がずらっと並んでいます。漢字には母音だけの発音、そして母音と子音の組み合わせの発音があります。子音だけで漢字を読むことはできません。そのことは、私たち日本人が使うローマ字を読むときの状況を思い出していただくとイメージしやすいと思います。このピンインが読めるようになれば中国語が話せる!というわけにはいきません。もう一度繰り返してしまいますが、漢字一つ一つに「こういうふうに発音してください」とピンインが定められています。そして、さらに漢字には発音(つまりピンイン)だけではなく「こういうイントネーションでしゃべってください」という指示も決まっているのです。そのイントネーションの指示が「声調」です。ピンインと声調をマッチングさせて発音し、初めて漢字を読めると言えるのです。

 

◆中国語のイントネーション「声調」はどのくらい大切なのか?

 日本語、特に標準語と言われる言葉の中には、それほど大きなイントネーションの上がり下がりは見られません。例えば「箸(おはし)」と「橋」は地域によってイントネーションが異なりますが、これを間違えて言ってしまっても、前後の話の脈絡から推測すれば大きな誤解にはならないですよね。一方で中国語は漢字一つ一つにイントネーションが定められていて、これを間違えてしまうと「伝えたいことが伝わらない!」。これだけならまだしも、時には誤解を生む可能性も出てきてしまいます。中国語の入門レベルのテキストに頻繁に使われている例があります。それは、「ma」というピンインを尻上がりで読むのと、語尾を下げて(尻下がり?)で読むのとでは全く違う意味になってしまうというエピソードです。答えを言うと、「ma」を尻上がりで読むと「麻」で、語尾を下げると「悪口を言う」です。この2つの言葉はカテゴリーが異なるので、万が一イントネーションを間違って発音してしまったとしても、対話をしている人同士が「話のツジツマがあわない」と気がついて、どこかで修正される可能性があるので、さほど深刻な誤解をうむことはないかもしれません。しかし、このような、イントネーションが違うだけで全く異なる方向にコミュニケーションが発展してしまうことは、実際あるのです。

 ある時の日本語レッスンで、私が中国の子供たちに中国語で「日本では夏になるとおいしい梨が食べられるよ」と言いました。子供たちが「生では食べないでしょ?」と言うのです。「いやいや、生で食べるよ。形はリンゴに似ていて、色が薄茶色の果物だよ」という私の顔を見て、子供たちは「日本のはそんなに大きいの?!」とはてな顔でした。これは、私が声調を間違えてしまったのです。「梨」は尻上がりのイントネーションで発音しなければならなかったのに、語尾を下げてしまっていたのです。語尾を下げると「栗」という意味。この話題で15分くらい、子供達とクイズみたいなやりとりをしてしまいました。20年以上中国語と関わっている私でも、中国語をしゃべる時に少し気が抜けていて声調(イントネーション)が甘くなると、このようなヘンテコなコミュニケーションになってしまいます。

 もう一つ、ご紹介させてください。12月のある日の日本語レッスンで、私は中国の子供に中国語で「もうすぐクリスマスだね」と言いました。彼は「先生、いま『生卵デー』って聞こえたよ」と言いました。クリスマスは中国語で「圣诞节」と言いますが、一つ目の漢字「圣(聖)」の声調が本来は尻下がりなのに、下がり方が浅かったために「生」という字の発音になってしまったことから、彼には「圣诞节(聖誕節、つまりクリスマスという意味)」ではなく、「生蛋节(生蛋は生卵という意味)」に聞こえたのでした。二人で大笑いした楽しいエピソードですが、ビジネスシーンでは笑えない誤解もあるかもしれません。

 

◆アルファベットで表記されている「ピンイン」の発音は難しいのか?

 ピンインの読み方について少しお話します。一覧表を見たことがある方ならイメージできると思いますが、縦21個の子音と横36個の母音を掛け合わせた表ですから、やたらとたくさんの発音が並んでいて気後れしてしまう初学者の方もいらっしゃると思います。この一覧表には400以上の発音が並んでいますが、とてもざっくりと言ってしまうと、だいたい7割くらいはローマ字読みの感覚で覚えてしまうことが可能です。要するに残りの約3割の発音のしかたについて、中国語特有のきれいな発音をするためのコツを覚えてしまえば、一覧表を読めてしまうのです。

 中国語の発音というのは、「うまく発音できる時と、うまく発音できない時がある」というものではありません。一つ一つの発音は、それぞれ唇の形、舌の位置、口腔内の形などをどのようにすれば標準的な発音が作れるかがほぼ決まっています。このような中国語特有の発音のコツを明確に認識しないで発音するということは、初学者の方にとっては、毎回当てずっぽうで発音するような心もとなさがあるということです。

 「この二種類のピンインの発音はとても似ているけれど、その音の違いはカタカナでは表しきれない」ということがあります。このような時は、発音の仕方の違いを比較することが大切です。その異なるコツを意識して、何度も発音を繰り返すことが標準の発音の確実な定着につながります。

 学習が積み重なり、中国語の発音に慣れてきたらCDやユーチューブなどの音源を聞きながら発音練習をすることをおすすめします。一方で、学習をスタートさせたばかりでピンインを初見で読むことにまだ不安がある時期は、講師に発音を確認してもらいながら、標準的な発音が定着するまでトレーニングをするのがよいと思います。

 

◆中国語を「効率的に習得する」ための最も有効なプロセスとは?

 声調もピンインの読みも、中国語学習のスタートアップの時にこれをしっかり身体で覚えてしまえば、その後、会話でも文法でも中国語を読む速度は速くなる一方です。しかも、精度も高くなっていきます。発音の精度が高くなるということは、中国語ネイティブの発音に近くなっていくということです。

 通じやすい中国語を話すことを目標にする時、発音の精度の他に、話す速度もとても重要です。中国の人たちは話す速度が非常に早いです。話す速度が速いということは、人の話を聞き取る時、つまり彼らの耳もその速さに慣れているということですから、いくら、「外国の人が一生懸命中国語を話してくれているな」と思って配慮しながら私たちの中国語を聞いてくれたとしても、あまりにもそのスピードが遅いと、言葉として伝わりにくくなってしまうということがあります。

 ピンインを標準的な発音で読み、正しい声調で中国語を話す訓練をしていくと、自然に通じやすい中国語を話す習慣が作られていきます。速度問題にしても、中国語ネイティブと完全に同じスピードで話さなくてもよいわけで、要はご自分の中国語を通じやすいスピードまでもっていけばよいのです。それを可能にするのは、発音と声調の初期の訓練です。そうやって身に着けた中国語は一生モノと言ってよいでしょう。たとえ、「数年間、中国語に触れなかった」時期があったとしても、再度中国語を話し始めたら復活は早いです。そのような生徒さんたちもたくさん見てきました。大学の中国語の授業で発音を徹底的にトレーニングした人は、社会人になって何年目かの社内研修で私のレッスンを受けても学びの進捗が非常に早く、彼らの仕事ですぐに中国語を使うことができています。また一方で、「中国留学を数年して文法は自信があって会話もできるけど、よく通じないことがあるから発音を学び直したい」というご要望もあります。

 

◆企業の中国語研修のカリキュラムについて思うこと「英語とは違う」

 このように重要な中国語の発音と声調ですが、企業研修のカリキュラムの中で発音と声調を重視しているものは希少です。2時間程度で4種類の声調と36個の母音、21個の子音の発音トレーニングを終わらせようとしているカリキュラムがほとんどです。そのようなカリキュラムを組んでしまいがちなのには理由があると思います。それは、英語研修のカリキュラムのイメージにひっぱられているのではないかと思うのです。

 中国語研修を新規に導入する企業では、先行して英語の研修を取り入れているところが少なくありません。私は英語研修のカリキュラムを見たことがないので、英語研修に対する認識が間違っているかもしれません。これから私が書くことが間違っていたらごめんなさい。企業が導入する英語研修のカリキュラムの中に発音だけに特化したレッスンというものはないのではないか、もしくは、あっても非常に少ないと思います。それは、日本人には、少なくても中学で3年間、そして高校、大学にすすめばさらに長い時間の英語学習の機会が与えられていますから、社会人になって初めてアルファベットを学ぶ、つまり英語の発音の基礎や発音記号を学ぶというケースは少ないと思うのです。企業の英語研修は多くの場合、「その辺は当然わかっているはずですね」という前提で、英語ネイティブとのコミュニケーションを円滑にし、ビジネスをより有利にすすめるための英語表現の習得を目指すカリキュラムを組むのではないでしょうか。企業内で語学研修が始まる時間は、どの言語クラスもだいたい同じなので、待合室で居合わせる英語の先生たちが抱えている教材には「ディベート」とか「論理的思考で英語を話す」みたいな表題が書かれてあったりするところからも、生徒さんは研修のスタート時にすでに「TOEIC●点持っているから●点まで引き上げたい」というレベルではないかと想像できます。

 外国語のカリキュラムを組むという時に、この英語研修のイメージにつられて、「発音だけで何時間も費やすのはもったいない。限られた研修時間でなるべく早く実践に生かせる言葉を覚えたい」という考えをもとにカリキュラムを作ると、「発音は1、2時間ですませて、3時間目から文法と会話どんどんやります」しかも、大学の授業では3コマに分けて解説、練習するような単元を、ビジネスパーソンは時間が限られているという理由で90分の中でやってしまうというカリキュラムも見たことがあります。

 私は講師として、この種類のカリキュラム通りにレッスンを進める勇気はありません。なぜなら、中国語初学者の生徒さんが学び始めの段階で発音と声調を習得しきらずに会話や文法に進んでしまうと、2つの面で取り返しのつかない状況を生むからです。一つは、十分なトレーニングをせずに発音学習をすすめた挙句、まちがった発音に一旦慣れてしまうと、その後、発音矯正をしようと思っても標準的な発音を取り戻すことは非常に困難なのです。絶対無理とは言いません。実際に私は、生徒さんの発音の学び直しのレッスンを担当することは多くあります。しかし、これまでの例を見てきて言えるのは、標準とは言えない発音が定着してしまうと、それを修正するためには、ある程度の時間を割いてトレーニングをする必要があるということです。このタイプのレッスンは入門クラスよりもさらに生徒さんのモチベーションの維持がレッスン成功のカギを握ります。もう一つは、発音を習得する前に文法や会話の内容に進んでも、実際に漢字を読めないので、件のピンイン一覧表と首っ引きで文章を読むことになります。これは非常に効率が悪く、生徒さんご自身がものすごく疲れてしまうようです。「先生、時間がないので発音はやらなくていいです。すぐに会話を教えてください」とご要望のあった方のレッスンの進捗は早くなるどころか、発音を確認しながら文を読むために目も思考も行ったり来たりしながら学ばれるので、ご自身がとても苦戦されていらっしゃいました。結局、元のカリキュラム(最初の4時間で発音と声調をトレーニングしてから文法を学ぶ計画)を消化することさえも難しくなってしまいました。

 

◆だからアジアのことば教室で中国語を学び始めていただきたいのです

 私がお勧めしたいレッスンの順序とは、まず先に、ある程度ピンインの読み方のコツを覚えてしまい、同時に4つの声調をコントロールするためのトレーニングをしてしまいます。これに5時間程度の時間を費やしてもよいと思います。実際は4~5時間で一覧表を読めて声調を完全にコントロールできるわけではありませんが、少なくとも5時間程度の集中トレーニングをすれば、かなり中国語耳や中国語脳(そういう感覚的な言語スイッチが皆さんの身体にあると私は思っているのですが)は作られます。そこまでいけば、中国語はもうあなたのものです。

 発音がゆるぎないものになれば、文法は独学で習得することは可能ですし、ヒアリング力も語彙力も会話力も、現代のツールやサービスを駆使すれば自分自身の工夫でいくらでもレベルを高めることができます。みなさんの中国語の最初の一歩はとてつもない大きな一歩なのです。私は、皆さんの最初の一歩を踏み出すお手伝いをしたくてこの教室を開きました。大手スクールのレッスンに全くひけを取らないクオリティをお約束できます。むしろ、大手スクールでは実現が難しいレッスンの提供をお約束いたします。みなさんお一人お一人の、それぞれの中国語ワールドの未来をどこの誰よりも真剣に大切に考えて中国語のサポートをいたします。

 

話が長くなってしまいました。最後まで読んでいただきありがとうございます。