言語のパフォーマンスを考えてみる

 

  「バサキ」「バオワ」とは何のことかと思ったら「バイト先」「バイト終わり」の略。学生たちの間では、ずいぶん前から標準語らしいですが、私は全然知りませんでした。アルバイトと言う単語が今やの一文字とは! 短縮されすぎて、ずいぶん頼りなく孤独になってしまったものです。

 

 このようにバッサリ切って意味不明になりがちな短縮系に対して、四字熟語、故事成語は、濃縮系と言ってもいいでしょう。中国語を勉強していると、本当に誰が考えたのだろうという便利さに感心してしまいます。長々しい説明いらず、短くて合理的、そのうえ汎用性あり。

 

 例えば、「大器晩成」という言葉。大きい器は完成するまでに時間がかかるということは誰でも分かること。それを人の成り立ちに例えて表現しているのも素晴らしいし、「彼の様な人物はね、ゆっくりと時間をかけて実力を養って、そのうちきっと頭角を現わしますね、そういうタイプだと思いますよ」とくどくど言わずに、「彼は大器晩成だと思う」で同じ内容はきっちり伝達完了。

 

 濃縮加減が星5つ。短いので、例え何人に伝言ゲームしても間違いも無いですね。さらに、羊頭狗肉、臥薪嘗胆、四面楚歌‥‥ストーリー系の故事成語は、頭に浮かぶビジュアルの印象も加わって、一層洗練された感じもします。

 

 以前、長文の訳に挑戦していた頃、中国語文の下に日本語訳を書き入れようとしても、収まらずにはみ出てばかり。同じスペースでは絶対に書き切れませんでした。例えば「」の中国語文の3文字を日本語にすると「彼女はご飯を食べる」と3倍の9文字になります。最大限短くすると「彼女は飯を食う」でしょうか? 少しニュアンスが変わるのは置いておいて、それでも7文字。倍以上です。では、英語はどうでしょう?「She eats rice」となりますね。単語間のスペースを半角として数えると12文字。なんと4倍となります。少ない字数で、同じ情報量を伝えるとしたら、中国語の圧勝でしょう。

 

 タイパとかコスパとか最近の世の中は効率と対価を重視していますが、何千年も前に生まれた漢字がなかなか良いパフォーマンスをしていることに気が付きました。