中国の川端康成ブーム

 5月下旬。NHKの海外ニュースを見ていたら、中国で広がる川端康成ブームと言うトピックを取り上げていました。

 

 中国の版権の期間は日本より20年短く50年。保護期間が切れたことにより、川端康成の新たな出版ブームだそうです。代表作『雪国』がすでに20以上の出版社から発売されていると知り驚きました。

 

 番組では、その中の一人『雪国』の翻訳と編集を手掛けた曹曼さんと言う女性を取材していました。ネットで丹念に日本の文化を細かいところま で検索し、翻訳に反映させている様子に心を動かされます。

 

 たくさんの『雪国』が出版されているため、書店でどうやって手に取ってもらうかも彼女の悩みどころ。編集者と相談を重ねて出来上がった『雪国』の装丁は、現代的で作品のイメージにもぴったり。大学時代にデザインも学んだと言う彼女のセンスがなかなかです。さらにイベントで配布するというブックカバーは、色も模様も美しく、切符をモチーフにした本のしおりは、素敵なアイデアに満ちていました。

 

 曹曼さんはこの川端康成ブームの中で『中国の読者は日本文化をますます深く理解しています』と自身も再認識。イベントに集まった人々の質問に答える言葉も、川端文学への造詣の深さを感じさせ、私の心に残るものでした。

 

 振り返って、今の日本。どれだけの人が日本文学に親しんでいるのでしょうか? 私が日本文学を楽しんでいたのは、もう数十年前の中高生の頃。それ以来、あまり手に取ることもなくなり、最近は日本人の細やかな情感がIT時代にそぐわないような気さえしていました。文学の中に息づく日本人の繊細な心の表現を、より理解しようとする中国の人々のムーブメント。このことに新鮮な驚きを感じ、北京の書店をちょっと訪れてみたい気分になりました。